「河童の証文」 |
むかし、むかしのことでした。清水という家のじいさが、青海川で馬をあらっとったちゃん。馬のせなかをこすっていると、急に“ヒヒィーン”といななき足を後ろにけり上げ、とつぜんあばれ出したちゃんね。
その時、“ヒャー”というひめいがしたかと思うと、子どものような動物が川の中へにげこんで行ったとさ。じいさは、たまげてなにごとかと思って見ると、馬の後ろ足のと所にかっぱのうでが一本ぬけ落ちおったとね。
かっぱのうでは、おなごのかんざしのようなもので、両手でつかむと千人力もあるけんど片手でつかむと、すぐぬけてしまうんだとさ。じいさは
「いたずらがっぱの奴、馬に何やらわるさをしようとしとったな。」
と、ひとりごとをいいながら、かっぱのうでを家へ持って帰ったとさ。
するとその夜、トントン、トントン、
「昼間のかっぱです。もう決して悪いことせんそい、うでをかえしてくんない。お願いです。」
かっぱはなきながら、あわれな声でいうたとさ。
「そんじゃ、青海の子どもや馬にいたずらせんという証文を持ってこい。そしたらかんべんしてやる。」
じいさはかわいそうになって、外のかっぱにいったと。
よく日、かっぱは清源寺のおしょうさんに証文を書いてもらって持って来たとね。
「もう悪いことはしませんそい、かんべんしてくんない。」
じいさに証文をわたし、べそをかきながら頭をさげた。
「いいか。悪いことをしちゃならんぞ。」
じいさは、かっぱに約束させて、うでをかえしてやった。
かっぱはよろこんで、なんどもなんども頭を下げ、礼をいって帰っていったちゃんね。
その翌日から、かっぱは、じいさの家のかきねの木のまたに、魚をたくさん持ってきてはかけて行った。一日、一日と魚が多くなり、木のまたが折れそうになったもんだそい、じいさは、じょうぶなクギを打ちつけたちゃん。
するとつぎの日から、かっぱは魚を持ってこんようになったってね。
かっぱは龍宮の姫様のお使いだから、金物はきらうんだってさ。
その後、大ききんが起きたりして村のしょうはみんなこまったけんども、じいさの家だけはふしぎと食べものにこまらんかったちゃんね。
村のしょうは、かっぱが恩をわすれんでじいさの家を守ってくれとるんだろうとうわさした。そしてね、かっぱが川をまもってくれとるおかげで、青海川には水で死んだり、川でけがをする人が出ないといわれとるんだとさ。
|
|
いちごさかえ申した。 |
|
|