「親孝行猿」 |
むかし、むかしのことでした。りょうしが山へかりに行ったとさ。あけ方から山へ入って、えものをさがしておったけん、なかなかえものが見つからんかった。いつかりょうしは、山のおく深くへ入りこんでおったとね。
「今日はどうしたこったい。えもののえの字もおらん。」
りょうしは、ふっと深いため息をついて、
「ええい、今日はもうやめだ。」
とつぶやいて、帰ろうとしたってね。
その時、ガサガサと音がしたかと思うと、子猿が枝から枝へたわむれるようにわたっていったとさ。
少しおくれて親猿があたりを見まわしながら、子猿のあとを追って行ったとね。りようしは鉄ぽうをかまえた。
〝ズドーン〟動作ののろい子猿を目がけたつもりだった。キャーという耳をつんざくような悲めいが聞えたと思うと、猿の体が、ちゅうをまって下に落ちた。いとめたのは親猿だった。りょうしの心は、少しいたんだ。
子猿を助けようとして、親猿が、わざと鉄ぽうのまとになった気がしたからだ。
夜中、りょうしは、もの音で目をさまし、そうっとあたりをうかがったってさ。戸のすき間からのぞくと、猿が一匹、いろりののこり火で手を温めては、つるしてある親猿をさすっておったちゃんね。
子猿が、つめたくなった親猿を生きかえらせとうと、一生けんめい温めておったんだってさ。
「おやおや、かわいそうなことをした。かんべんしてくれろ。」
りょうしは、戸のすき間から、子猿のけんめいなようすを見て、思わずなみだぐんでしまった。
つぎの日、りょうしは、親猿をいとめた場所まで運んでいき、手あつくほうむってやった……ということです。
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いちごさかえ申した。 |
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