「上刈みかん」 |
昔、昔のこと。
糸魚川の上刈にゃたくさんのみかんの木があったとさ。
小さくてちょっとすっぱいみかんの実は“上刈みかん”と呼ばれ、その木はとても大切に育てられていたとさ。
みよの家にも五本のみかんの木があり、枝をよう伸ばして、すずなりに実をつけておったちゃんね。
みよの父親は三年前に死に、おっ母さはみかんを売って小銭をかせいでおった。
「みかんをいっぱい売って正月の晴れ着を買ってやるそい」
おっ母さは病気でねているみよに約束しておったと。
「おっ母さん、今日も売りに行くんかね」
「ああ、早よう行って、ええ場所をとらんとな、
おみよや、今日たくさん売れたら、そろそろ晴れ着の銭たまるそい、楽しみにしとれや」
おっ母さは背中に、どっさりみかんを背負って町へ出かけたとね。
みかん売りのおっ母さ達は、がん木の下に並んで荷物を広げ、
「みかん買ってくんない」
「上刈みかんいらんかね」
と通る人に声をかけ、一升ますではっかて売ったとさ。
「今日は雪が降るせいか、なかなか売れんのう」
となりに並んだ善助さのばあちゃが冷えた手をこすり合わせて声をかけた。
「これみーんな売れんと、みよに正月の晴れ着を買ってやれんのじゃが……」
「今日はムリかも知れんなあ」
善助さのばあちゃはうなずきながらいうた。
「早う買ってやらんと、みよの病気は日一日と悪うなっとるそい…来年の夏までもたんかも知れん…」
おっ母さは、一人言のようにしゃべり、涙をふいた。
そこへ、暖かそうなかく巻で体をつつんだおかみさん風の人が姉やを連れて通りかかり、
「みかんもらいますかね」
というとおっ母さのみかんをみ~んなかってくれたとね。姉やにみかんをかつがせるととけいにお金をくれ
「娘さん、お大事にね」
といって雪の町を浜通りへ歩いて行ったとさ。
「おら達の話、聞こえたんだろうか」
善助のばあちゃと顔を見あわせ
「ありがとうさんでした」
おっ母さは、おかみさんの後姿に手を合わせたそうな。
おっ母さは、おみよの晴れ着を買い、いそいそと家に帰ると
「ほーれおみよ。みかんの木が晴れ着をくれたぞ」
にこにこ顔で着物を出して見せたと。 |
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いちごさかえ申した。 |
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