民話 > 蓮華の湯 (蓮華)
「蓮華の湯」
 昔、昔のことじゃった。
 越後の武将、上杉謙信は軍用金を手に入れるため、金や銀の出るいい鉱みゃくはないものか、とさがしておった。
 人のうわさを聞きつけては、あっち、こっちとほっていたが、いっこうに金や銀の出る鉱みゃくに、つきあたらんかったとね。

 ある日のこと、
 春の陽射しが心地よい午後、謙信は、ついうとうとといねむりをしてしまったちゃんね。
 春日山から、長野県ざかいへむけ、蓮華山の中ふくを歩き、見はらしの良いがけっぷちに立って、よい鉱みゃくはないものかと、見わたしておった。
 すると、とつぜん目の前に、一人の童子がすがたをあらわしたとね。
 謙信はふしぎに思い

「お前はこの山へ何しに来た。」

 と聞いた。童子は謙信をみつめ、

「金、銀のありかを知らせんがために来た。」

と、すんだ声で答えると、ずうっと下の山の尾根を指さし、“よいか”というとむらさき色の雲をたなびかせ、空のかなたへ消えていったとさ。

「もし、そこの人……」

 謙信は、さけぶ自分の声に、はっとわれに返り、ゆめであったことを知った。
 よく日、謙信はさっそく、蓮華の山に登り童子が指さしたと思われる所をほった。
 すると不思議、質の良い鉱みゃくがあり、ねんがんであった金や銀をさがしてあてることができたとね。

「あの童子はきっと神様のつかいにちがいない」

 謙信は日ごろ信こうしとる薬師如来をおもいうかべ、天にむかって、

「ああ、ありがたいこと、南無阿弥陀仏、なむあみだぶつ……」

 うれし涙にむせびながら、さけんだとね。
 その時、足もとが急にあつくなり、ふとみると温泉がわき出しておったちゃんね。
 謙信は、きせきに近い出来ごとの数々におどろき、かんげきの涙にくれたとさ。
 長い年月がたち、謙信がこの世を去り、その子景勝が会津へ国替えになることになった。
 景勝はふたたびこの地へもどって来ることを思って、鉱山の口と、湯の口をかくして行った。
 いつのころか、
 高田城下、春日町の高橋孫左衛門の初ゆめに薬師如来がむらさきの雲をたなびかせてあらわれ、

「蓮華のふもと、のりくら岳の中ふくに出湯がある。これを開いて人々をすくえ。」

 と、おごそかな声でいわれたとね。
 同じ夢を三年、それも正月にみたっちゃん。
孫左衛門の家は何代も続くあめやで、作っている“おきなあめ”は良く売れ、大きな身代をきずいておった。
 雪が消えるのを待って、孫左衛門は蓮華に登り、薬師如来のいわれた温泉の口をさがしあて、何百年もねむっていた温泉を開いたとね。

「あれはやっぱり正夢であったのか、早く来ないで申しわけのないことをしました。」

 空のかなたへ向かって手を合わせ“きっとりっぱな湯治場にします”と約束したとさ。
 それからのこと、山深い所ではあったけんど、それはええ湯で、村のしょうはもちろんうわさを聞きつけて遠くからもお客がやって来、蓮華の湯は山の湯治場として栄えたということです。

いちごさかえ申した。  

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