民話 > いろこ茶屋 (弁天岩)
「いろこ茶屋」
 とんと、昔がありました。
 能生町の西、能生橋を渡ると、いろこ崎という所があるわいね。
 ここに二軒のお茶屋があったとね。

 ある日、目あかしがここを通りかかると、一匹の猿が出てきて、“キャッキャッ”といって、さかんに目あかしの手をひぱったちゃんね。目あかしは“どうしたものか”と思いながら、猿につれられて“がくの谷”まで行ったとね。谷間をのぞき込むと人間の骨がいっぱい捨てられてあった。目あかしはとんで帰り、このことを領主に報告した。
 領主は旅人を泊めては殺し、金をまきあげたのは、茶屋の主人にちがいないと、両方の茶屋の主人を呼び出して、それはきびしい取りしらべをしたんだって。
 そんでも両方とも、

「わしゃそんな恐ろしいことはせん。」
「おれもぜったいしとらん」

といいはったとね。
 領主はどうしたものかと考えこんで頭をかかえていた。
 その時、猿が突然、ひょいと飛び出してきたかと思うと、キャッキャッと一方の茶屋の主人にとびかかった。
 茶屋の主人は首に赤い布をまいた、見おぼえのある猿にあの時のさる……と思い出し、かん念して

「恐れ入りました。おれがやったんです」

と白状したとね。
 この猿は、猿回しの猿でね。猿回しが大金をもっているのをふとみた茶屋の主人が、

「今日はもう遅い、泊って明日の朝早ように立ちなさればいい」

 と無理に言って泊め、翌朝、旅立った。
 猿回しのやってくるのを“がくの谷”でまちぶせ、金をとって殺し、死体を谷間へ投げこんだちゃんね。
 その時の猿が、主人のかたきをとろうと、はかり、この日のくるのを待っておったんだったさ。

 今も能生谷には
   能生のいろこの二軒茶屋
   人を殺してわが身がたとうか、
   みそばちや皆亡魂だ
   ささなんでもよいわいな
という歌がうたわれとるんだってさ。


いちごさかえ申した。  

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