民話 > 長者の初夢 (弁天岩)
「長者の初夢」
 昔、昔のことだったとさ。
 能生に長者と呼ばれている、大そうな金持がおったちゃんね。
 ある日、長者が言うたとさ。

「不思議なことがあるもんじゃわい。初夢に白いひげをはやした老人があらわれて、『青木湖のほとりに、黄金の入ったかめが沢山うめられておるそい、掘るがよい』とおごそかに言われたんじゃ」
「そういえば去年も、その前の年も同じ初夢を見たんじゃ、不思議なことよ」

 それを聞いた下男は、

「もしかしたら本当のことかもしれん」 とにんまり笑ったとさ。早速旅支度をして、こっそり青木湖へ出かけたとさ。
 青木湖のほとりにたどり着いた下男は、見当をつけてはくわで掘り始めた。
 するとも間もなく“ガチリ”くわが何かに当たったちゃんね。
 下男は胸をドキドキさせて、用心深く掘って行くと、かめが幾つも埋まっていたとさ。

「しめた。大金持ちになれるぞ」

 にんまり笑って一番目のかめを開けると。“ピカリ”と光る黄金が見えたと思ったとたん、“すっー”と青い煙が立ちのぼり、たちまちかめの中は空っぽになってしまったちゃんね。

「あれー。何んということだ」

 下男は次があるさと思いなおし、二番目のかめのふたを開けると“ピカリ”と黄金が見えたとたん、青い煙が立ちのぼりかめの中は又、空っぽになってしまったとさ。
 次のかめもその次のかめも同じだったとさ。
 下男はうらめしげに空を見上げ、

「骨折り損ということか」

 と一人言をいいながら長者の家に帰ったとさ。
 帰って見るとびっくりぎょう天。
 長者の家の中じゅうピカピカの黄金だらけ、土間もいろりの間も台所も、青木湖のほとりで見た黄金が山になってたちゃんね。

「びっくりしたじゃろう。二日前の昼頃ドカ、ドカと黄金が降ってきたのじゃ」
「わけがわからんのじゃ」

 長者は“ポカン”としている下男に言うたとさ。

 「えっ!二日前の昼ですと」

 下男は思わずさけんだとさ。
 たしか青木湖のほとりで、見つけたかめを開けたのは二日前の昼頃……。
 下男は頭がくらくらして、思わず座りこんでしまったちゃんね。
 下男は前よりも少し無口になり、前よりもよう働くようになったけん、青木湖へ行ったことは誰にも話さんかったとさ。

 長者は、ますます栄えたそうな。


いちごさかえ申した。  

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