民話 >犬の踊り (神道山)
「犬の踊り」
 昔、昔のことじゃった。
 能生谷の友衛門さの家に、一匹の犬がかわれておった。
犬の名はクマというて、名前はたくましかったけん、大人しゅうて細っこい犬だったそうな。
 友衛門は、冬仕事に、よくクマを連れて猟に出かけたとさ。

「さあ、クマや!お前、しっかりおれの打った獲物を見つけるんじゃぞ」
「ええか、しくっじったりしたら、ほげ出すそいな」
「ワァーン」

 しっぱい続きのクマは、よわよわしい声で鳴いた。
 クマは鼻が、ようきかんし、せい一ぱいはしっても他の犬より足が遅く、友衛門さのうった狸やうさぎをなかなか見つけられんかった。
 そんな時、友衛門さはいらいらして、

「クマの、のろまめ!」

 と、でっかい声でしかりつけたとさ。
 クマは、“今日こそ、ご主人のうった獲物を早く見つけられますように”」といのるような気持ちで、友衛門さの後ろから、ゆっくり雪道を歩いて行った。
 坂道を登り、林をぬけた時、真っ白い雪の原を狸がとび出してきたそうな。

「ズドーン」

 友衛門は、す早く身かまえて銃を打ち、一発でいとめたとさ。

「行け!」
「たしかこのあたり?ワンワン」

 クマは、雪の原を走ったけん、なかなか狸を見つけられず、うろうろとして、ようやく赤い血を流してたおれ苦しそうな息をしとる狸を見つけたとね。

「ああ、やっと見つけた」
「それにしても、こんな雪の原で、お前は何しとったんだ」

 クマは、狸の顔をのぞきこんでいうた。

「おどりの、ケイコをしておったんじゃ」

 狸の話によると、毎年一月十一日に、双源寺のうらの林で動物のあつまりがあり、その後、おどりがあるという。

「犬さん、お前さんも行くがええ、あそこでおどると、動物は、みーんな、かしこく、りっぱになるんじゃ」

 狸は、そういうと目を閉じて、死んでしまったそうな。

 一月十一日の夜、クマはわすれずに、双源寺のうらの林に出かけて行ったとさ。
 そこには、キツネ、狸、リス、うさぎ、クマ、いろんな動物があつまって来とった。
 犬のクマもみんなと一緒に並んで話合いの中に入った。
 早々と話合いが終わるとたいこがなり、笛がピーヒャラリ、にぎやかに動物のおどりが始まったそうな。
 犬の仲間はおらんかったけん、クマは、動物達の輪の中に入り、にぎやかに楽しく話をし、たいこや笛にあわせておどるうち、あっという間に朝になってしまったとさ。
 動物たちは、それぞれ山や森に帰って行き、クマもうきうきと家に帰ってきたとね。

 それからのこと、
「のろま」「のろま」
 といわれていたクマは、見ちがえるようにす早くなり、鼻もきき、友衛門さがびっくりするほどの猟犬になったそうな。
 今も、一月十一日の夜には、双源寺の林で動物たちのおどりが、くり広げられておるんじゃとさ。


いちごさかえ申した。  

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